Menu Content/Inhalt
パフォーマンスアップにグルタミンがなぜ重要か? プリント

2.ハードトレーニングを行っているとき、体内で何が起きているのか?

“回復”の重要性について


体に激しいストレスがかかっているときに、筋肉が果たしている役割

——先のお話で大変興味深かったのは、「グルタミンが全身のエネルギーをつかさどっている」ということでした。エネルギー源といえば炭水化物が主体であり、エネルギーとして体に取り込まれる最終的な形はグルコースしかないと考えている人が大半だと思うのですが、グルコースだけではなかったのですね。グルタミンが、生体の維持に重要な免疫細胞や消化管粘膜(吸収上皮)の細胞の直接的なエネルギーとして使われている。そこは驚きですね。しかも、グルコースの原料としても使われる重要な働きがあり、つまり全身のエネルギーをつかさどっている。
鈴木:そうですね。だからこそ、グルタミンは、すべてのアミノ酸のなかでも、特別な役割を担っているのだといえます。
——非常に重要であるにもかかわらず、ほとんど知られていないですね、グルタミンのそうした働きが。
ところで、ハードトレーニングなどによって体に激しいストレスがかかっているときに、グルタミン摂取が重要になるといわれていますが、それはなぜなのでしょうか?

鈴木:たとえば、手術というのは身体にとって激しいストレスですが、手術により身体にメスが入ると免疫細胞が活性化し、ふだんの10倍くらいグルタミンを使います。手術という“非常事態”に対し、生体の防御機能が働いて対応しようとする。免疫細胞はそうした非常時にすぐ使えるエネルギー源として(同時に免疫細胞をつくる材料としても)、グルタミンを利用します。
——一気に10倍も使われるとなると、グルタミンの供給量が追いつかなくなると大変なことになりますね。
鈴木:筋肉の最重要の課題は、そうした非常時のグルタミン供給にも対応できるように、常に血中グルタミンレベルを一定に保つことです。ところが、腹部手術後の血中グルタミンレベルを測定した研究によると、通常のレベルの半分くらいに落ち、それが6日後でもまだ十分に回復していなかったという報告があります。
——つまり、筋肉が血中に供給するグルタミンが追いついていないということですね。
Image鈴木:手術によるストレスの大きさによりますが、同じ腹部の手術でも比較的簡単な手術では、3日後の血中グルタミンレベルは手術前とあまり変わらないという報告もあります。ただしこの研究でも、筋肉中のグルタミンレベルは半分くらいに落ちています。どちらの場合にしろ、筋肉中のグルタミンレベルはかなり落ちて、数日間は十分な回復が得られないことが多いようです。

ハードトレーニングによる体へのストレスは?

——トレーニングによっても、手術の場合と同じような大きなストレスが体にかかっているのでしょうか?
鈴木:トレーニングによっても、手術後と同様なグルタミンレベルの変化が起きていることが実験で確認されています。
最大酸素摂取量の50%のそれほど無理のない強度で4時間走ったときの血中グルタミンレベルを測定したのが図1です。運動前の550マイクロモーラーくらいから、運動後には400マイクロモーラーくらいに下がって、運動後もしばらくはグルタミンレベルが回復していません。
体重の約45%もある筋肉組織がグルタミンを供給するので、日常動作程度では血中のグルタミンレベルは安定的に維持されているのですが、激しい運動や長時間の運動を行うと、血中のグルタミンレベルを維持できなくなってしまうのです。
——日本の場合、練習が毎日続くことが多いですね。つまり、ハードトレーニングを毎日続けている選手が少なくないと思うのですが、そうした状況では体内のグルタミンレベルはどのように変化しているのでしょうか?

Image

鈴木:ハードトレーニングを10日間続けた実験が、図2です。血中のグルタミンレベルはトレーニング後も約6日間回復していません。
——これだけ長期間回復していない状態が続くと、トレーニング効果にはマイナスですね。
鈴木:トレーニング効果をあげるうえでよくいわれるのが、トレーニングによって刺激を与え、休養をとり、“超回復”させるということですが、筋肉中や血中のグルタミンレベルが回復しないということは、スポーツパフォーマンスにマイナスですし、健康にもマイナスになると考えられます。
グルタミンレベルが回復しないと、筋タンパクや筋グリコーゲンの回復が妨げられますから、こうした状態が長期間持続し、その間もトレ―ニングにより身体ストレスが加わり続けると、超回復どころか、オーバートレーニング症候群に陥ってしまいかねません。
——そうすると、ハードトレーニングを行うときには、グルタミンの摂取が“回復”のカギになってきますね。
鈴木:そうですね。グルタミンの補給がタイミングよく行えているかどうかが、“回復”の重要なポイントになります。

★「必須アミノ酸」でないからこそ、重要?★
 たんぱく質を構成する20種類のアミノ酸のうち、必須アミノ酸が9種類ある。必須アミノ酸とは、人間の体内で合成できないアミノ酸のことで、食物などによって外部からとる必要がある。
グルタミンは、「非必須アミノ酸」に含まれるが、これは体にとって重要度が低いということを意味するものではない。鈴木氏の解説にある通り、グルタミンは生命の維持に不可欠なアミノ酸だといえる。
鈴木氏によると、生きていくことに欠かせないアミノ酸だからこそ、人間の体の中で合成できる機能が進化の過程でも維持されてきたのだという。もともと生物は、アミノ酸をすべて合成できる機能を持っていたが(大腸菌は今でもその機能を持っている)、進化の過程で、食物などによって外部から安定的にとれるアミノ酸については体内で合成する機能が退化してしまったと考えられている。
生命維持に不可欠だからこそ、体内で合成できるグルタミンだが、ケガや病気、ハードトレーニングなどの状況下ではグルタミンが大量に使われ、食事やサプリメントなどで補給したほうが「回復」が促進されると考えられる。